シュパーゲルの季節

シュパーゲルへの熱狂なしに、ベルリナーにはなれない。逆かもしれない。ベルリナーでいるなら、熱狂するよりほかにない。白いアスパラガスはほとんど唯一の季節モノ。「またお会いできましたね、お元気でした?」ー野菜相手に気恥ずかしくなったり、神聖すぎて教会のキャンドルに見えてきて、待望の食欲が一瞬躊躇したりする。こういうあべこべは、白アスパラの熱狂のせい。または、ベルリンのせい。

数日前に「シュパーゲルの販売スタンドが出てたっぽいよ」と100%未満の目撃情報を受けて、その週の極寒の日曜日、自転車でいそいそと調達に出掛けた。折しもベルリン・ハーフマラソン大会の11時で、近くの大通りは天然色のランナーとその応援で埋め尽くされていた。

諦めて引き返すアイデアもあったけれど、人の流れが切れるのを待っていたほかの何台かの自転車に勇気をもらった。サドルから降りて、手押しで渡ることにする。わたしの乗っていた重たい方の自転車を、Rの軽いのに交換してもらって待機した。

「Jetzt!!(今だ!!)」蛍光オレンジの沿道整備員が鋭くあげた声を合図に、全速力で斜めに走る。視線は正面に据えて、でも同時に右から迫り来るランナーの気配を目の端ぎりぎりで捉えながら、突っ切った。

スタンドに着いたら3組がすでに並んでいて、重さ(太さ)ごとに違う種類のアスパラが5つのカゴにそれぞれ寝かされていた。その前の人もすぐ前の人も選んでいた上から2番目のを1キロもらう。隣に置いてあった赤いイチゴも一緒に。

なのに「目的達成、やれやれ帰りましょう」とスタンド脇に自転車と立つRのほうへ向かったわたしは実際には手ぶらで、指摘されて慌てて取りに戻る始末。こういうのは白アスパラの熱狂のせいなのか、ただのベルリン的ポンコツなのか、よくわからない。

はっきりしてるのは「シュパーゲルは美味しかった」ということ。3日間を違うスタイルで楽しんだ。はじめは茹でたアスパラにイタリア風の香味野菜とゆで卵を刻んだソースで。次はリゾット、最後は茹でたての上に生ハムとオリーブオイルとパルミジャーノをのせてほんのり塩コショウ。

おととい行ったヘアサロンの隣の人も「シュパーゲル(白アスパラ)」の話、きのう道で会って長い立ち話をしたMも「シュパーゲル食べた?」と聞いてきた。みんなの熱狂が続くのも長くてあとひと月半、もしも気まぐれに飽きてしまったら3週間いかないくらい。

わたしは今週末、スタンドへ行くだろうか。ベルリナーぶってみても、けっきょく蕎麦がいつも恋しい。