大阪万博のマスコットの、青いあれのお尻にはシッポがついていた。後ろから撮られた記念写真が送られてきてわかった。「なんだ、正面じゃないの」そう思うよりなにより早く、わたしは丸いシッポに釘づけになった。
人間みたいに振る舞っていたから(会ったわけじゃないけど)、てっきりお尻はつるんとしてると思っていた。真剣に向きあったことすらない先入観を裏切られて、急によそよそしい存在にうつる。
勝手なものである。画面越しのどこかで見かけたくらい、親しいつきあいもない。そもそもシッポつきのほうが世界の多数派じゃないんですか?えらそうに。知らないけど。青い肌やお手玉みたいに踊らされたいくつもの目玉を当然のように受け入れたくせに、たかがお尻にショックを受けた。
あれの丸いシッポ。あれに丸のシッポ、とはね。あるとすら思わなかった知らないものを、確かめることはできない。あとどれくらい、そんなことがあるんだろう。
去年の夏、日本から「おにやんまくん」を連れて帰った。10センチちょっとの精巧なフィギュアで、捕食を恐れて蚊やハエやハチなんかが寄ってこなくなるらしい。オニヤンマ最強説があるとか、ないとか。先月ついにキッチンの窓に吊るしてみた。
はじめの一週間、寝起きにベッドルームの換気をするとき、対角の窓に張りついた巨大オニヤンマに仰天した。異質なものにでくわして恐怖を感じると、声が引っ込んでしまうとわかった。わあもきゃあも出ない。それに律儀に驚いている間抜けは、どうやら人間だけだった。
どんどん入って来る、ハエもハチもキッチンの窓を軽やかにすり抜けてきた。オニヤンマなんて眼中にない。ベルリンの虫はオニヤンマを知らないのだ。知らないから、全然こわくない。大胆になれる。でもそのあとパンパンうちおとされる、ちいさい方の人間に。残念なことに。
もう10年はここにいるのにね。知られてない。伝わらない。わかりあえない。わたしはどこかにあるはずの、いいバランスを探している。